天井桟敷の女優、退団後は安部譲二の情婦、そして、the Mojosのチーボーの最初の妻だった女性、高橋咲の自伝的小説三作目。六十年代の憧憬を抱きながら本牧に通い続ける咲、本牧で彼女が出会う人々は魅力的であるものどこか悲しい。本牧のボスとして君臨しながら空虚さを抱えるゴロー、一つの恋の傷を抱えながら生きる堕天使のように美しいセイ坊、セイ坊のグルーピーで、血のつながらない兄の死の悲しみを兄の恋人と共有しながら生きていくモモ、家族から暗黙のしきたりとしがらみから解放され、焦るように恋をし、命を落とした中国美人のメイ。彼らの生き様が基地の街から首都圏の衛星都市へと変貌していく本牧とともに描かれている。特に前半のむせかえるようなバタ臭さ漂う描写と、後半の咲の心情の荒みとともに充満する鉄錆のような臭気は六十年代の本牧の繁栄と、七十年代後半からの衰退と重なっていく。