学術系の出版業界に取材しその実態について徹底的に考察した圧巻の一冊。お堅い研究書・学術書を企画・製作・販売している出版社は、どのような戦略や自意識(セルフ・イメージ)のもとに日常的実践を行なっているのか、四つの規模や性格の異なる出版社の社員へのインタビューを中心に調査し、緻密に分析している。ひとりひとりの社員・編集者が、なかなか売れないが立派にできていれば会社の威信を高めてくれる本格的な学術書と、啓蒙・教養書や教科書などの商業的に安定した本とのバランスをどのように決めつつ、それぞれの作品をいかに意味づけ、また原稿の提供者である著者や経済活動の基盤としての会社との関係性を調整しているのか、実に詳しく論述されている。
こうしたケーススタディをもとに、さらに学術書の生産のいわば環境としてある出版業界とアカデミズムの今日的な状況についても検討される。「出版不況」のなか内容の厚みと回転の速さが雑誌並みのファスト新書が書店の空間を占拠し、若手の研究者もその勢いのなかに飲み込まれるなか、本書のような手間隙をかけて念入りに創作される研究書の命運が問われる。論文のみならず学術書の出版に関してもピアレビュー(同業の学者による査読)がつく米英の制度との比較も入れつつ、日本における学術出版の特異性を考慮し、その現在と未来が批判的に議論される。新鮮かつ説得的な論考であると思う。
人文・社会学系の業界で糧を得ている(得ようとしている)研究者にとってもろに身近な世界の舞台裏の構造が説明されているので、非常に興味深く読めるだろう。また、学者たちの「村」でじっくりと精錬された「知」の結晶たる学術書が、どのように一般社会に流通するようになっているのか、これを理解することで、日本における「本」の役割の一端についても色々と考えをめぐらすことができる。見事な労作/傑作であるといえよう。