清水幾太郎は、しばしば自伝的なものを書いている。或いは、思想家の解説を書いても、「自分」との出会いを書くので、結局自伝みたいなものになっている。商社マンのような思想家だった、と私は思っているが、軽んじているのではなく、理想と現実を彷徨いながらも、稀有の現実感覚の思想家だったと尊敬している。この「本をどう読むか」は、秀逸な読書論であるばかりでなく、清水幾太郎、その人が良く出ている最も優れた本の一つだと思う。「読書論」として勧めていることは、オーソドックスで、バランスが良く、行届きすぎているぐらいだが、小才を効かして要領良く世渡りした人物の軽薄な意見ではなく、強い個性を持った秀才が、頭をぶつけなら学んでいった、体験記であり、嘘偽りが無い。やさしい言葉で無理なことを言っていないので、「じゃあ、俺も」と思うのだが、実行することは容易ではない。立派な教養を身につけることは高踏的な努力や才能を要求しないが、見かけよりずっと難易度が高いことを知るにつれ、清水の優秀さが分かってくる。同じような体験は、「福翁自伝」を読んだときにも受けた印象だ。