何か事件が起きたとき、私たちは被害者や加害者だけに目を向けがちですが、当たり前のことながら、一つの事件にはたくさんの人たちが関わっています。警察官もその一人。乃南さんは、警察で働いたことがあるの?と思うくらい、リアルな刑事の日常が描かれていると思います。
普通刑事物というと、事件の解決に重きを置いた話が多い中で、解決しない事件もあり、捜査の過程での出来事に打ちのめされることあり、警察官もいろんな思いを抱えて捜査にあたっているのだなと思いました。警察官も人間、いくら捜査に感情を交えてはいけないとわかっていても、やりきれない怒りに自分がつぶれそうになるときもあるでしょう。そんな人間くさい音道貴子が描かれているのが今回の短編集です。
小説の中の女刑事というのは、腕っぷしも強く、頭脳明晰、事件をばしばし解決していく、なんてのが珍しくありませんが、彼女は決して強くない、ある意味とても普通の女性。しかし、根性だけは人一倍。腕っぷしの強い男に、無謀にかかっていくこともしないし、町中で小競り合いを見ても、「私は刑事よ!」なんてでしゃばったりしない。捜査でつらい目にあって、人を信じられず自分を見失いそうになるけれど、やっぱり自分にはこの仕事しかない、とまた刑事の日常に戻っていく。自分と同年代かな、ということもありとても親近感を感じてしまいます。
働く女性にはよくわかるでしょうが、職場というのはまだまだ男社会が多いもの。その中で生きていくには、なかなかに大変なことなのです。強さは必要だけれど、いきがって男性と同じになろうとしても駄目なのです。その点、彼女には変な気負いがない。ただひたすら、一人の刑事として自分のできることを精一杯やろうとしている。その点も好感が持てるのです。
まるで、実在する人を描いたかのような描写力。人間・音道貴子を楽しめる短編集です。彼女にあってみたい、話してみたい、と思わせられる小説です。