実に興味深い読み物である。
2036年からタイムトラベルしてきたと名乗る男J・T。彼のいた2036年ではUNIXにある重大な問題が発生したため、APLやBASIC等の初期プログラミング言語よりも古いIBM独自のプログラミング言語を翻訳できる唯一のコンピュータIBM5100が必要になったらしい。彼はIBM5100が製造されていた1975年にトラベルしコンピュータを手に入れ、その帰り道に我々の世界線(1998年〜2001年)に立ち寄ったそうだ。そこで交わされた掲示板での知的やりとりの一部始終が納められている。
私はどちらかと言えば科学寄りの人間なので半信半疑ではあるが、彼の言う『もうすぐCERN(欧州原子核研究機構)は大型機を稼動させ、超高速・高エネルギー粒子の衝突実験を始めます。このエネルギーの増大から生まれる中で最も奇妙で、潜在的に危険な要素が、電子サイズのミクロ特異点のかけらなのです。』という部分には思わず引き付けられてしまった。というのは実際に現時点(2007年現在)でCERNは2008年を目途に超高速・高エネルギー粒子を衝突させるための大型機を稼動させることを公表しているからである。
いずれにせよこの本を読むと、彼が実に論理的かつ客観的な思考の持ち主で、かつ人間的にもバランス感覚の優れた人物であることが分かると思う。そして何より、"多世界解釈"や"多元的宇宙論"による極めて興味深い洞察を得ることができるだろう。