機能中心の設計に異議を唱え,使いやすさといった行動レベルの重要性について示した「誰のためのデザイン?(1990年)」.行動レベルに加え,本能レベルや内省レベルまでも考慮する必要があることを指摘した「エモーショナル・デザイン(2004年)」.そして本書は,デザインに対する前著の考え方を引き継ぎ,21世紀の新たな技術や機器が向かうべき道を示すものとなっている.
20世紀,自動車はすでに内燃機関の調整やギアチェンジなどの最も基本的な本能レベルを受けもっており,人間は安全に目的地に到着するための高度な内省レベルを受けもてばよかった.そうすることで,車を適切に走らせる行動レベルが共有されていたのである.ところが21世紀の車は,ナビゲーションなどの内省的なレベルをもちはじめ,人間との役割分担が不明確になってきている.ここに危険があることを筆者は指摘する.機械が上手く機能しなくなった際,すべてを機械に預けた人間はどうすることもできない.そのため,人間と機械がコミュニケーションするための共通基盤が重要であるとされる(人間同士でさえ,共通項のない人とコミュニケーションをとることは大変である).この共通基盤をどうするかが,本書で多くの議論を費やしている部分である.
デザイナーに限らず,「拡張された身体」として様々な技術を利用していく全てのユーザーが,是非,知っておくべき話題であろう.
個人的には,学問の世界から離れた筆者が,初期の手書き認識システムで失敗する様子を知ることができ,大変興味深かった.これも共通基盤が欠落した例として扱われている.