たった一夜の物語、それもごく数時間だけの物語。
回想シーンでは遠く白樺山地まで飛ぶが、中心はアパートの一室という、限りなく閉じた世界の物語。
同じアパートの一室に住む、わけありの男女二人が、気まぐれで行った旅行から運命に翻弄され、猜疑と葛藤にさいなまれるミステリ。
かなりねじまがった表現ではあるが、恋愛要素が多く、主要人物が限りなく少ないというのも恩田陸にしては珍しい感触。
作品世界としては「黒と茶の幻想」「まひるの月を追いかけて」の紀行小説の側面、「蛇行する川のほとり」のノスタルジックかつ、耽美的な側面を兼ね揃えた作品。これらの既発表作が好きな人にはストレートな物語です。
ラストの受け取り方は人それぞれかと思うが、純文学的な性格を帯びてきたようにも感じた。ちなみにタイトルに連動した、遊びの利いたカバーも出色の出来なので、ゼヒ手に取ってください。
「公明正大な朝が来る。朝というのは人を正気にさせ、全てを日常に引き戻す。数時間前に重大に思えたことがちっぽけなものになり、妖しく輝いて見えたものが安っぽく色褪せて見える。」 本文244ページより