初めて著者の正木高志氏に出会ったのは、もう20年余り前のことだ。当時正木氏は、『80年代』(野草社)という雑誌に“聖母地球の首飾り”という連載を書かれていたのだが、大学卒業を前にして教師になるべきかどうか悩んでいた僕にとって、新しい文明のあり方や、教育の原理、非暴力、平和などについて自身のインドでの体験をもとに書かれているその一連の文章は、衝撃的な力を持っていた。
それは大学の先生のような「自分だけは安全」なポジションにいる人々の評論家的な文章ではなく、野においてほんとうに生きている人間の、全身全霊をかけた思索の軌跡の書であった。
1985年夏。長崎・野母崎の平和キャンプに汗だくになって着いた僕と彼女に、正木さんはチャパティを焼き、甘いチャイを入れてくれた。それから夜中まで、なんだかお母さんに抱かれたように安心して飲んだくれていた僕に、正木さんはいろんなことを話してくれた。8月の夜空には銀河が流れ、僕の悩みは満天の星にすいこまれていった…。
さてこの『木を植えましょう』だけれど、そのタイトルゆえにガーデニングなどの分野に分類されそうだが、タイトルの下に小さくSustainability & Spiritualityと書かれているのを、見逃してはいけない。
文明は森林を破壊することによって「進歩」してきた。しかしいまや誰でもが「地球にやさしく」を口にするほど、現代の物質文明はぎりぎりの状況に追い込まれている。それではSustainableな社会秩序を創造するには、どうすればよいのか。
正木氏は言う、「それならば、代わるべき新しい秩序とは森を甦らせる森の文明ではないのか」と。「木を植えるところに新しい時代は誕生するのだ」と。
ではもうひとつ、それがなぜSpiritualityへとつながっていくのか。詳細ははぶくが、実はそれこそが根っこなのだ。特にこの本の第5章(P93〜96)を熟読してほしい。カルト宗教に陥らない、もっとも大事なポイントが書かれている。
正木氏は、娘さんとの会話をもとに教育や文明のあり方に力点をおいた『スプリング・フィールド 〜新しい時代意識の目覚め〜』を90年に上梓、そしてこの『木を植えましょう』に続き、実践の書『出アメリカ記』を2003年にまとめられ出版されている。特に生き方に悩む若い人たちに、ぜひしっかりと読んでほしいと願っている。(了)