「死者の書」「犬博物館の外で」など、独創的で神秘的な傑作を生み出してきたジョナサン・キャロルの新作です。
ジャンルの固定が難しい作家ですが、やはり過去作同様、今回も大人向けのダークファンタジーと呼ぶのが一番相応しいでしょう。
今回の主人公は前二作にも登場した元不良の警察署長、フラニー・マケイブです。とは言っても連作ではありませんので、今作から読んでも全く問題ありません。
物語は、自ら死を看取り埋葬したはずの老犬の死体が、フラニーの元に戻ってくる事件を皮切りに、キャロル得意の「普通の人生が少しずつ狂っていく」さまを、丹念にそして圧倒的な描写力で描ききっています。リーダビリティも相変わらずで、読者は様々な伏線の張られた迷路の中をグイグイと導かれていきます。
主人公をはじめとした愛すべきキャラクター造形も見事であり、秀逸なセリフ回しと相まって、いつも間にか感情移入している事でしょう。
中盤、謎の一部が明確になるにつれて主人公の使命が明かされ、哀しくも寓話的な結末へと向かっていきます。ただのホラーやファンタジーに収まらない、いい意味でのキャロルらしさが全開のエンディングは、読み手に、少し立ち止まって人生を考える時間を与えてくれます。
久々に上質の物語に浸かる事ができました。
「木でできた海で、どうやってボートを漕ぐか?」
答えは人それぞれ違うのでしょうね。