人が権威に従って残酷な行動をとってしまうことを示した通称「アイヒマン実験」を,研究者(ミルグラム)自らが解説した名著である.権威者が命じれば,嫌がっている人にも罰として強力な電気ショックを与えてしまうといった一連の研究が,非常に組織的になされていることが理解できる.被害者役のサクラの写真がのっているが,とても人づきあいがよさそうな紳士である.この人が,「もうやめてくれー」などと叫んでいたかと思うと,とても印象深い.
後半では,通常は常識的で良心をもった人々が,権威者の代理人としてふるまうようになる過程が推測され,その社会的な意味が論じられている.さらに興味深いことに,翻訳者である山形氏はあとがきで,社会的な意味について異なった解釈を与えている.ミルグラムが実験を行った時代と,現代のような個人主義が支配している時代で,政治や指導者に対する批判の形が変化したことに関係がありそうだ.
社会心理学の有名な一側面を理解するにも,現代社会の問題を考えるにも,そして人間個々の自由に思いをはせるにも大変有用な一冊である.