熊撃ちに「またぎ」が使う「村田銃」を手にしてみたことがある。設計者のバランス感覚の良さを感じさせたが、そうか、あれは民間の狩猟用に、軍用とは別に製造・販売されたものだったんだ、どうりで。
三八式歩兵銃も手に取って見たことがある。評価の分かれる兵器だが、命中率は悪くないものの完成品にバラツキがあって個別的な扱いが必要なため、部品交換したあとなど、かなり調整に手間どったと作家「五味川純平」氏が自らの体験を何かに書いていた。
「斬込み隊」とて白刃を揮って敵陣に切り込んだりする攻撃ではない。また「突撃」も、横一線に並んで銃剣を先に突っ込むような攻撃ではない。あれは一種の比喩的文学表現にすぎないと、やはり、評論家「山本七平」氏が書いていた。実際、「斬込み隊」とは、夜陰に紛れて敵陣内に侵入し手榴弾や地雷などを投じてくる攻撃方法であり、「突撃」は、地物に沿いながら小銃を連射しつつ急速前進する攻撃姿勢をとることだったというのが本当のところ。
日露戦争での日本軍勝利は、以上のごとき前提のもと、駐退復坐機構を完備した露軍野戦砲に対する日本軍野戦砲陣の劣勢を、歩兵の主兵器だった三十年式有坂銃が射撃性能の優越で辛くも跳ね返した勝利だったと、著者は解く。
日本陸軍が、第2次大戦の最後まで、三十年式の後継・三八式歩兵銃を棄てられなかったのは、自動小銃採用に伴う桁違いの発射弾数増加に応じるだけの弾薬補給体制を構築する目処が立てられなかったためだったと解く。
本書、兵頭二十八氏らしく、総じて手堅い研究に裏付けられた兵器技術への具体的な解説で、いわゆる通説なるものが、どこで誤ったのか、なにゆえに誤っているかを、じつに、すっきりと解き明かしている。
たんにメカオタクな分野に止まらず、戦争というものを本当の意味で理解するのに必要とされる軍事行政への理解も、兵器開発者「有坂茂章」の軌跡を追う本書によって得ることができるといえよう。