「月食の日」
この作者の文章には特徴があって、地の文→会話文→地の文、と流れる中で、ある会話を思い出したものが「」(カギカッコ)で記され、次の地の文で意識が飛んで回想になり、改行後、また現在に戻る、というような、いわゆる「意識の流れ」の手法が使われている。
この作品でも、語る対象がある人物から別の人物に移り、過去に行って、視点人物が変わって、と改行ごとに記される内容が飛んでいく。それに慣れれば楽しいが、慣れないと読みづらい。視点の切り替わり、とも言う。映画で言えば、カメラ位置がどんどん変わり、カットインが繰り返される、といた感じか。ちょっと芸術っぽくなる。
最初のシーンだと、隆の元恋人の路子のアパートの外壁の色についての感想→アパートの住民について→隣人についての回想→友人の里奈の香水→隣室の鈴木まどかの視点で大家とのやりとり→アパートの入り口での二人のやり取り→それぞれの視点で、まどかは買い物、隆は部屋→現在(日曜日)の視点に戻る。
一行空けて、隆と津田幸正との再会の前の、女友達との食事→電車で幸正の視点に変わり→同僚OLをライブに誘った話→ボランティア会(JRC)での隆とのやり取りの回想→幸正が声をかけ、二人で電車を降りる。
一行空けて、路子視点で隆と美術館に行ったときの話(夢、ということか)/一行空けて、幸正からの電話、隆の出かける準備/一行空けて、津田詩織視点、幸正との結婚、退職、流産といった回想→幸正視点で同僚OLと太ってきた妻の比較
一行空けて、隆と幸正との再会時のやり取り、思い出話など(中高生のときと今で、時間的な広がりを作るためか)/一行空けて、隆視点で女友達のことなど、幸正の家へ/一行空けて、詩織視点、食事/一行空けて、幸正視点、新婚旅行の回想→現在、同僚からの電話→詩織視点、食事を続けて、夫は出かけて行き、月食になる。赤銅色。地球儀を濡らして、乾かして、「月食」を盲人の隆に説明。
一行空けて、隣室の鈴木まどか視点、仲良くなった隆と詩織を観察する。外壁の色は「卵色」ではなく、「うすぎたない黄色」と、人によって見え方が違う。
ごく単純に言うと、盲目の隆が、過去知り合いだった幸正の家に呼ばれて食事をし、その妻の詩織と月食を体験し、家に送ってもらう、という半日程度の出来事となる。
そこから階層的に、近過去の、隆と幸正の再会、隆の女友達や恋人、結婚してからの詩織、アパートの隣人との挨拶、などが語られ、高校時の隆と幸正の共通の友人や、その後の阪神大震災に罹災した話などが出て、横軸に人間関係だとしたなら、縦軸に時間軸を取って、語りはその座標を縦横無尽に行き来して、階層的な広がりを作っている。
150枚くらいの作品だが、一応都会の本八幡(ほとんど東京都内の千葉、大手町まで30分くらいか)の、色々な人物の交差する、一つの風景を見せられた感じがある。
「たそがれ刻はにぎやかに」
凡作、といった印象。
取り壊しの決まったアンティークマンションに住む老女と、その孫(正確には孫ではない)の元恋人(家のない役者崩れ)の関係。青山だとか、同潤会アパートだろうか。
老女と青年のエロティックな関係を表現したかったのか、とも思うが印象が薄い。