「平成の泣かせ屋」の異名を取る浅田氏の短編集。さすがに稀代のストーリーテラー、凄いです。何が凄いか……。巻末にある桜庭一樹氏の解説に次のような一節があります。「浅田次郎の小説は、読者を泣かせるから偉いんじゃない。涙の理由が自分でもわからないから、凄いんだ」
「月島慕情」「供物」「雪鰻」「インセクト」「冬の星座」「めぐりあい」「シューシャインボーイ」の7編。泣ける話ばかりです。
浅田氏の所謂「泣かせ」については、否定的な意見がある。例えば「月島慕情」と「めぐりあい」ではつかみかけた幸せを自ら身をひくことで逃してしまう女性を描いているが、男にとってまことに都合の良い女を創り上げその行為を美化するという欺瞞に満ちた小説だ、といった意見です。しかし私はそれはあたらないと思います。浅田氏が描く人物は、心には心で応える人物だから。つまり相手の気持ちに報いるために自分を捨てる覚悟を持っているからです。浅田氏は「シューシャインボーイ」の中で菊治にこう語らせます。「世間のせいにするな。他人のせいにするな。親のせいにするな。男ならば、ぜんぶ自分のせいだ」