今更言うまでも無い宇宙旅行SFの元祖です。現実のロケット研究の創始者だったツィオルコフスキーやゴダードやフォン・ブラウンもこの本の愛読者でした。アポロ8号のフランク・ボーマン船長もこの本のちょうど100年後に自らが搭乗したミッションの進行が驚くほどこの小説に似ていたため当時よりこの本を賞賛しています。もちろん1860年代(日本では幕末!)に書かれた小説ですので現在の科学的見地から見ると古臭さは否めませんが、昨今流行の「スチームパンク」として読めば十分娯楽に堪えますし、かえって新鮮かもしれません(笑)。まだ無線通信が発明される前の時代だったので「弾丸に電線をひっかけておけばモールス信号で地球と電報のやりとりができたのに」「それじゃあ地球の自転でケーブルが巻き戻されて地球に引っ張り戻されるよ」という会話に爆笑しました(苦笑)。まあ、それは愛嬌としてもこの時代にすでに「地球脱出速度」「酸素酔い」「無重力」「軌道修正」に言及しているのは驚くべきことです。よく言われる「地球脱出速度を打ち上げの際に一気に加速したらGと空力加熱で一瞬に砲弾は押しつぶされ燃え尽きてしまうという突っ込みは原作者のヴェルヌは十分理解していて、かなり不十分とは言え言い訳のガジェットも用意されております。月軌道で火薬ロケットによる軌道修正を記述しているくらいですからヴェルヌも「ロケット」という概念はすでに持ち合わせていたはず。にもかかわらず物理的にかなり無理のある「大砲」を用いたのは宇宙開発と軍需産業の癒着という風刺を描きたかったからと今では言われています。まさしく現代のロケットは大陸間弾道ミサイルから発展したものでヴェルヌの風刺の驚くべき先進性が伺えます。
PS)前の方がちょっぴり書いているメリエスの映画版「月世界旅行」は原案だけヴェルヌを拝借しただけで大砲で打ち上げる以外は内容はまったくベツモノです。ヴェルヌの小説版では異星人は出てこないので念のため......