ハイジャックされた旅客機のトイレで起きた殺人事件。
極限状況のなかで、なぜ犯人は殺人を犯したのか……?
事件の背景にあるオカルト思想は、あくまで本格ミステリを成立させるための設定に
過ぎないのですから、真に受ける必要はないですし、そうした特異な思想の持ち主で
あることを前提にすれば、ハイジャック犯たちの言動に矛盾はありません。
本作では、自分たちなりの論理を貫徹しようとする生真面目なハイジャック犯たちとは
裏腹な、論理的一貫性など歯牙にもかけない被害者の振る舞いが不可能犯罪を生じ
せしめたといえます。
その不可能犯罪は、実体的なトリックと突発的なアクシデントが複合して生じたもので、
シンプルながらよくできています。しかし、やはりホワイダニット、つまり動機探しのほう
が主眼といえるでしょう。
その動機は、一般人にはとても共感できない代物ですが、犯人の
内的論理では、一切矛盾がなく、首尾一貫しているのが秀逸です。
そして、殺人の真相が明らかになった後、もうひと波乱あり、ハイジャック事件に
隠された狙いがあったことが判明するのですが、そこにおいても、歪ながら首尾
一貫したホワイダニットを展開しているのが素晴らしいです。