プレイ・バッハで一世風靡したフランス人のジャズ・ピアニスト、ジャック・ルーシェによる母国のドビュッシーをとらえた音楽を意外なほど良かったと評するのは失礼かもしれません。
ただ、堅牢なゴシック建築とも言える構成美を誇るバッハの音楽とドビュッシーの絵画的で自由な音楽との接点が見えてこなかったのは当然でしょう。バッハの音楽は堅牢な構成ゆえ、ジャズとしての変奏が生きてくるわけで、しなやかな感性で綴られたドビュッシーの音楽は元々ジャズとの親和性があり、あえてそれをジャズで演奏するのはよほどの技術か確かな個性を必要とするからです。
母国の生んだ偉大な作曲家へのレスペクトは十二分に感じられました。フランス特有のエスプリの効いた軽妙さと明るさが評価されるところです。クラシック音楽を素材にジャズに取組んだミュージシャンは沢山いましたが、彼ほど違和感無く自分自身の音楽として再構成したものはありません。
ベースのベノワ・デュノワイエ・ド・セゴンザックはピアノに寄り添い、アンドレ・アルピノのドラムスは時に明確にリズムを刻み、時にはシンバル、ハイハットで鮮やかな色付けを施していました。
2000年の録音ですから、この時65歳、テクニックも感性も衰えていません。ドビュッシーの名曲を8曲選んでおり、この選択には賛同します。
「月の光」はもとより「アラベスク」「亜麻色の髪の乙女」など原曲の持つ美しさや味わいを損なうことなく、見事なジャズへと変身させています。クラシック好きな方もこれなら納得がいくでしょう。
なお、録音に定評のあるテラーク・レーベルですし、リーフレットのジャズ評論家のアリン・シプトン(訳・出口一也)による解説も参考になりました。