表題作を含む8作を収めた短編集。ドタバタ・コメディからサスペンス、人情物まで幅広い作風を持つ作者だが、本作は作者の代表作となり得る秀逸な出来だと思った。各編の主人公は心に何らかの傷を抱えて生きている。そんな主人公達の脆くて混迷した心理状態を、過去と現在、現実と幻想の混淆の中で静かに映し出している。主人公達の頭に去来するのは、あり得たかもしれない別の人生、あり得たかもしれない他者との異なった関係、あったであろう亡き人の思念......。
各編の構成は必ずしもハッピーエンド的ではなく、主人公達の苦悩が全て解決される訳でもないのだが、不思議と優しい読後感を味わえる。題名の「観覧車」を借りれば、主人公達の年齢・経歴は既に下りに差し掛かっている。頂点や上りをホロ苦く(あるいは甘く)回想する事は出来ても、現実には最早降りるしかない。しかしそれは、"決して絶望ではない"、というメッセージが強く込められているためだと思う。読者層としては、40歳代以上を想定しているのではないか。
奇しくも刊行されたのは東日本大震災直後(ただし、各編の執筆はそれ以前)。人と人との絆の大切さが謳われた時期である。本作はまさにそれに応えた様な作品で、心に傷を持った方を優しく包む滋味溢れた秀作だと思う。