限られた予算(500万ドル――ちなにみ「アバター」は2億3700万ドル)で短期間(33日)に製作されたとのことで、重力を無視した表現とかの出来の『安さ』は否めませんが、生の出演部分はほとんどサム・ロックウェルの一人芝居に限定し、『同じ金額で最大の効果』をあげるように工夫されたVFXとCGの使用(と監督が言うように)、エネルギー資源やクローンテクノロジーの問題への鋭い洞察とが、映像の『安さ』を補って余りあります。
先だって公開された、本作と同様に低予算ながら秀作SF映画だった「第9地区」が社会派SFアクションなら、本作はそれ以上に社会風刺の効いたSFドラマですね。アクションシーンが無いからこそ静かに怖い。
シナリオの上手さも光ります。序盤、3年間、月面に単身赴任する男の事情というか普段の生活のようなものが描かれますが、この時点ですに終盤への伏線が着々と張られています。また、「2001年宇宙の旅」のHALのような人工知能ロボット(ケビン・スペイシーの声が渋い)や、サムが怪我をしたときの絆創膏とかの小道具の使い方が上手かったです
ね。
労働の形態の変化を、批判的にとらえている点も面白い。バスの運転手が『ワンマン』になったように、今後、労働は、本作のサムのように、ロボット的な機械の助けを借りながらたった一人で行う孤独な作業になるでしょう。本作では3年間ですが、一生そうであるような状態も起こりえる。ある種の『独房』生活、生活と労働の場の『刑務所化』は、すでに起こりつつあります。ある意味、SFの体裁を借りて労働問題を描いているとも言えます。
また、監視の目の届かぬところでは、企業がいかに労働者にひどいことをするかも描かれています。ひと昔前のSFだとこういった悪役は日本企業だったのですが、本作では韓国の企業という設定になっているのも『今どき』なんですかね。(苦笑)
登場人物はほとんど彼一人といっていい、サム・ロックウェルの演技も特筆ものです。クローンの二人を演じ、同じ顔なのに、全く違う表情。何か裏がありそうでなさそうな彼の表情には、安らぎ感とドキドキが入り混じっていますね。
監督ダンカン・ジョーンズはデビッド・ボウイの息子ということが話題にもなっていますが、実力と才能は確かにありますね。登場人物はほぼサム・ロックウェルとAIロボットのみだけど、大袈裟な演出に頼ることなく、一切ダレずに、最初から最後までグイグイ引き付ける演出は新人監督とは思えません。次回作も期待です。