読み手を引きつけるストーリー展開があるかと言われば難しいが、
一度読めば廃れるような流行りの娯楽重視の作家とは違う。それは確かだと思う。
文章が緻密で臨場感があるので、まるで自分が、慎一と春也の傍でたたずみ、
事のすべてを固唾をのんで見ているような気になった。
特に何が起こるわけではない、比較的淡々とした小説なのだが、心の底からぞわぞわする気持ちを味わった。
子どもの世界は、大人が考えているほどきれいで純真ではない。
子どものとき、自分も、この小説の登場人物のように狂気におかされていたことを、
まざまざと、思い出させてくれた。
大人の事情に振り回されながら、いじめや虐待に惑わされながら、それでも強く生き抜いて、
だんだんと狂気を強めていく少年少女。
その緩慢で、ゆったりとした事の成り行きが、ヤドカリの気味の悪い描写、暗い海辺の町の描写、
義足の祖父の描写と重なって、独自の世界観を作っている。
私は女性読者なので、主人公が少女なら、もっと強く感情移入できたかもしれない。
しかし、少年の傷つきやすい心にも十分呼応して、苦しくなった。
ミステリーや感動小説、恋愛小説など何かのジャンルに分類できるような分かりやすい作品ではないが、
文章が繊細で独特の魅力があり、良い意味で気味の悪さを残す小説だった。