新訳が出たのを機会に、20年振りくらいに読んでみた。昔は、あまり海外の小説を読んだ経験がなかったので、「何とスケールの大きな小説だ。これが本物の小説だ」などと思った記憶があるが、今読み返してさほどそのような印象は持たない。
そのかわり、例えば訳者が解説で「面白くない」と触れる第一節、イギリス人の料理下手を皮肉るところなどは、イギリス料理のひどさ(失礼!)を知った今となってはとても笑えた。
しかし小説の内容は、モームが所々はにかみを見せ、ユーモラスに書いていることとは裏腹に、「人間とは? 芸術とは? 幸せとは?」と深刻な問いを突きつけてくるシリアスなものだ。しかし決して小説としての面白さに欠けるところはなく、むしろ一度読み始めたら途中で中断できなくなる。作者の世界に否応なく引き込まれてしまう。おそらく、また十年後、二十年後に読み返した時、まったく違った印象を受けるのだろう。さらに、今から百年近く前の作品とは思えないほど、まったく古めかしさを感じない。本物の古典とはそういうものであろう。
もちろん本来は原語で読むべきだろう。翻訳でも原著の魅力は十分伝わってくるとわたくしは思う。以前の訳との違いなどはさすがに記憶にないが、一点だけ気になったのは、たぶん"lepra"の訳と思われるが、「ハンセン病」。ここは、いくつかある、差別的意味を含んだ訳語の中から選んだほうが「文学的には」正解だろう。