探偵役は、自分が理想とする劇団を立ち上げようと奔走している若者2人。
劇団の立ち上げに協力を依頼しようとする人物や、その周辺の人物の身の上に起こった「事件」の話を聞くうちに、隠された真相を「推論」する。
具体的な証拠に基づいた「推理」ではない。
「事件」の語り手の側が、探偵役の側の表情の変化に気付く描写はあるが、探偵役が語り手の表情の変化を読んでいる描写は無い。
また語り手は、話の内容に沿って自分の表情が変化している事までは自覚していないようだ。
こうした書き方は、ミステリとしては微妙にアンフェアなのではないだろうか?
探偵役は、明らかに語り手の表情や口調の変化を読んでいる。しかし、視点人物が語り手の側に固定されているがゆえに、読者は、語り手の表情までは知りえない。
探偵役の語る「真相」もまた、一つの推論に過ぎないから、この微妙にアンフェアな感じは減殺され、読んでいるうちは余り気にならないのだが、後になってみると、単に作者の語り口に乗せられただけ、という気もしてくる。
それにしても、登場人物が皆揃って良い人ばかりだ。
作者の人間観がそうなのだろう。
しかし、それゆえに「いささか出来すぎ」「少し偶然に頼りすぎ」といった感も否めない。
その点でも、微妙な出来だ。