読みづらいかというと、べつに読みづらいというわけでもない。分かりづらいかと訊かれると、そうでもないとしか言いようがない。
ではストーリーテリングに手が込んでいるのかと訊かれれば、べつに手が込んでいるわけでもない、としか言いようがない。起承転結とかクライマックスとか、そういう手順とは別のルールでできあがっている、と思う。劇的効果なんか、あまりない。
生きているひとが、たぶんみんな日常に感じているズレ感覚や、人生にたいする違和感。そんな苦い人生の味。グレイス・ペイリーはそういうところから物語を起こしていて、やっかいな人生の味わいそのものを、うまく表現して見せてくれる。
人生は、いくら考えてみても、答えの出ないことばかり。そんな理不尽で残酷な部分を、錯綜した状態のまま、しかし鮮明な切り口から見せてくれる。そういう作家はほかにもいるけど、この「冴えた苦み」のような味わいは、ほかにはないと思う。
そういう意味でリアルな小説。たぶん誰にとっても重要なものになりうる物語。
「そうそう、こういうのが読んでみたかったよね」と言えるまでに、わたしの場合は数年かかった。最初の単行本はろくに読まずに捨ててしまった。この文庫本でやっと焦点があってきた。いまはっきり言えるのは、この苦み、えぐみは、ちゃんと滋養や旨味を含んでいるということ。
それに、これは、なんというか、子どもには読めないんじゃないの?
生きることの、いちばん困った部分でイヤというほど悩んだとか、そういう経験を乗り越えたひとが、ああなるほどね、と思うような話ばかりなので。