確かにブームに乗った本かもしれません。しかし、私は大変面白く読めました。天璋院篤姫、和宮という徳川宗家の御台所となった2人の、天命を受け入れ、幕末の大奥を支え、嫁ぎ先の徳川家を守った毅然とした行動、その何れ劣らぬ知性と人間性を再認識できたことはもちろん、篤姫が将軍家定の御台所に所望された背景には、将軍綱吉の養女・竹姫の島津家への降嫁、逆に島津家の茂姫が将軍家斉の正室なったという島津家と徳川宗家の歴史的なつながりがあったこと、その姫たちが島津家歴代藩主、特に重豪、斉彬に代表される開明君主に影響を与えたという前史があったことを私は初めて知りました。本書は篤姫と和宮各々の縁談と自分の使命を全うした生涯と、最初は激しく対立した嫁姑もやがてともに実家(薩摩藩・皇室)から徳川家を守る戦友となってゆく過程を軸に、江戸時代中期から幕末にかけての日本史を女性中心の視点で描くことに成功しています。登場人物も幕末の薩摩藩主と将軍たちや幾島等大奥の女中だけでなく、将軍吉宗、田沼意次から西郷隆盛、勝海舟に至るまで多彩で、彼らの個性が鮮やかに点描されています。要所に2家以上の家系図を配置して複雑な縁戚関係を図解し、出典も明示、文章も平易で読みやすい本です。惜しいのは、読みにくい人名は初出箇所でルビをふるだけでなく、全部にルビをふってほしかったことと、この手の歴史本を読むときに感じることですが、索引があってほしかったこと。でも、本書がその短所を補って余りある、歴史の躍動感が伝わる面白さに満ち、あっという間に読める作品であることは確かです。「明治を生きた天璋院と和宮」の章は歴史的使命を果たし終えた2人のその後を語っており、エピローグとして秀逸。和宮終焉の地となった箱根の宿を天璋院が訪れて詠んだ和歌が心に染みます。