『特別料理』で得も言われぬ不気味な「奇妙な味」を味合わせてくれた、エリンの短編集。収録された掌品は結末の跡に、更なるドラマを感じさせる作品が多い。翻訳家も錚々たるメンバーが揃った、珠玉の短編集。気に入ったのは以下。
「エゼキエル・コーエンの犯罪」(訳:仁賀克雄)
休暇旅行でイタリアを訪れていたアメリカ人警官は、ナチと内通した裏切り者とされたレジスタンスの娘と出会い、二十年以上の歳月を超えて、真相究明に乗り出す。ほろ苦い結末ながらストレートに感動できる佳作。
「古風な女の死」(訳:永井淳)
画家の妻が夫のアトリエで、胸に深々とナイフを突き立てられて死んでいる冒頭から、その死の真相を探る本格推理。。。。にみせかけての意外な結末。ミステリとしてギリギリセーフかつ悪意の深さが伺えるアイデアが秀逸。
「12番目の彫像」(訳:永井淳)
舞台はイタリア。映画制作の現場と辣腕プロデューサーの思惑がぶつかり合って。。。という中篇ミステリ。長さゆえか、ミステリとしては凡作であるが、映画好きにはある種堪えられない構図の「対決もの」として楽しめる。
「最後の一壜」(訳:矢野浩三郎)
この世に一本しかないワインを巡る、愛憎渦巻く復讐譚。鮮烈にしてなんとも言えない余韻を残す、傑作。
「画商の女」(訳:深町眞理子)
「127番地の雪どけ」と同じく、持つ者とと持たざる者の対決編。因業な画商をやり込めるアバズレの冴えたやり口が極めて痛快。
「清算」(訳:永井淳)
結末から更なるドラマの広がりを感じさせる。時代が生んだアイデアは、デヴィッド・マレルのアレと同じテーマを鮮やかに、しみじみ怖く料理している。
「天国の片隅で」(訳:丸本聰明)
短編にしておくのは勿体無いようなアイデアだが、長編だとダレるんだろうなぁと。個人的に、俺自身の持っている闇の琴線に触れる、大変に怖くも爽快感のある傑作。