どういうわけかビギナーズクラシック版ではなく最初からソフィア文庫を購入してしまいました。思った以上に深い作品です。千葉県民は最初の千葉県に関連する部分だけ読んで全て知ってしまった気分になりますが、実は奥の深い複雑な作品なのです。もっともそれを知るには相当の時間の投資が必要になりますが。まず現代語を読みます、そして次に原文に向かいます。必要なら注も。この注は相当に詳しいものですが、様々な先行作品との美意識上のつながりを示してくれます。この作業を続けていくとわずか100ページにもかかわらず、10時間近くもの時間がかかります。しかし見返りは十分あります。まず更級日記という題名の秘密がわかります。そして作品は人生の終わりの時点で、或る「不幸」な女性が自らの一生を振り返ったものだという事実も。時間的な経過には目新しい華やかな私生活上のイヴェントは登場しません。時間は淡々と平凡に経過していきます。そこでは自然の移り変わり(紅葉や月)に対する意識が繰り返し語られます。いろいろな心象風景が呈示されますが、異様に長い「時雨の夜の思い出」は珍しく、著者と或る男性との淡い感情の交錯が見事に描写されています。最後は限りない孤独感を漂わせて締めくくられます。