これぞアイリッシュ節全開といった趣きの作品です。はっきり言って推理小説としては全然良くありません。真相は最初からバレバレです。純愛小説としても大甘。リアリティのかけらもありません。しかし、それでも私はこの本を読むと涙が出そうになってしまいます。この、冷静に考えると凡作なのに読者を引き込んでしまう詩情こそがアイリッシュの魅力なのでしょう。『喪服のランデブー』とこちらのどちらが最高傑作か、思わず悩んでしまいます。
文通をきっかけに一度も会っていないにもかかわらず結婚することになった男と女。男が港に出迎えに行くと、船から下りてきたのは写真とは似ても似つかない絶世の美女でした。彼女は恥ずかしいので姉の写真を送ったのだと言います。しかし、真相は本物の婚約者を殺してなりすましているのでした。次に狙われるのは主人公の男性です。しかし、彼は彼女を信じようとします。そこのところが甘ちゃんです。犯行がバレた後に彼女は改心を誓うのですが、それを簡単に信じてしまう男は常識的には大馬鹿でしょう。だけど、私には彼の気持ちがよくわかります。アイリッシュもまた、人の心を信じたくて仕方なかったのでしょう。