新版エルリック第三弾!
『暁の女王マイシェラ』1977(1971年版の加筆バージョン)
『薔薇の復讐』1991
の二編からなっています。みての通りシリーズ中期と後期の作品。どちらもムアコックの世界観がムズムズと広がってゆく過渡期を感じさせ、それにあわせるように読者の意識も深みにはまっていきます。まず本巻のみどころは訳者のあとがきです。短いものですが、近代ファンタジーの変遷とエルリックサーガの変遷を重ね合わせてタイトにまとめてあります。特にエルリックサーガを発表時期ごとに分類している部分は幾分図式的にすぎるきらいもありますが、読み方の手がかりになるでしょう。
そしていよいよ本編ですが、今回は手ごわいです。セレブ・カーナとの戦いの中で、幾多の多元世界を体験する『マイシェラ』。いよいよここで、前巻でほのめかされたヴォアロディオン・ガニャディアックの塔でのエターナル・チャンピオンたちとの共闘が繰り広げられるのです! 広がり続ける世界のビジョンに気が遠くなりそう。そして『薔薇の復讐』では、読者はさらに途方に暮れます。ムアコックの小説世界と現実の神話の世界を行き来し、「詩」を通してそれらをつなげる詩人ウェルドレイクの登場で、いよいよ、現代の叙事詩を描こうという意識がはっきりと示され、同時に物語の構造はますます多重的、メタフィクショナルに。気がつけば、読者の現実が、物語の世界と区別できなくなっているということもあるかもしれません。
今回も、これからの人生を重ねるたびに感じ方の違う読書を楽しめそうな一冊。一生の出会いになると思います。少し覚悟がいりますが……。
そうそう、冒頭の「親愛なる読者よ」では、若きムアコックとバラードやベイリーら、SF作家の大御所たちのニューウェーブ時代の交流についてが語られており、SFファンとしては胸わくわくでした。そうか、アルフレッド・ベスターがお気に入りだったのかぁ。