ルネサンス、とのことばは中世にとってあまりに悲惨なラベリング。新生、再生とはこれ
すなわち、それ以前の数百年を死せる時代として閑却してしまうものなのだから。実際、
この時代の哲学もまた、「神学のはしため」との評を筆頭に罵倒のことばに事欠かない。
ところで本書は、当の「中世スコラ哲学の入門書として書き始められたもの」であり、
その端緒として「普遍論争」という「問題の系譜学を探る」。とはいえ、本書の立場は必ずしも
通説的な理解に与するものではない。「実は普遍論争が中世哲学を覆い隠してきてしまった」
との見立てから、実在論、概念論、唯名論との分類の妥当性にテキスト批判を通じて吟味を
重ね、「いわば中世哲学の仮面を取り除くことで、中世哲学への招待を」試みる。
そして、中世の議論の緻密さを知らしめることを通じて、中世と近代に果てしない断絶を
見る浅はかな通説に異議を差し挟み、「近代の源流としての」姿を提示する。
分厚い本ではあるが、本文は300ページ程度、巻末に140ページにものぼる「中世哲学人名
小事典」が付されている。です・ます調で綴られてはいるが、端々に氏特有の毒気がにじむ。
氏は入門書と語りはするし、事実、説明なども慎重かつ丁寧なものではあるが、かといって
形而上学や論理学に一定程度の心得のない人間が軽やかに読める一冊などでは到底ない。
とりわけ、原典から抜粋した翻訳部分などは、コンテクストや解説抜きでは晦渋を極める。
中世哲学の入門書を欲しているのなら、まずはリーゼンフーバーに当たった方がよかろう。
その後に本書を手にとっても決して遅くはない。豊かな実りに富んだ一冊であることは確か。