魔女狩り、奴隷制、ナチズム、アパルトヘイト・・・、歴史を振り返ってみればわかるように、その時代や社会によって「普通」として考えられていたことはいろいろあります。そして、その「普通」に対して距離を持ってみることができる時、それらのことが「普通でない」ことがわかります。このことを知識として知っている人は多いでしょう。しかし。自分の思考の限定された枠組みを絶えず意識し、それを乗り越えようとしている人は多くはいません。この本のユニークで素晴らしいところは、本を読み終えると、この枠組みを変えていくプロセスを体験できる構成・内容になっているところです。
筆者は問いかけます。「普通の国」とは、どういう国のことなのでしょうか。「平均的な国?」「国としてあるべき理想の姿?」「アメリカのような国?」、それとも「正常な国?」・・・。筆者はこのような問いかけを続け、そして、その一つひとつの問いに対して具体的な事実を提示し検証しながら私たちの思い込みに揺さぶりをかけてきます。
例えば、「国が交戦権を持ち軍隊が必要なのは、外敵から国民や国の大切なものを守る必要があるからだ。実際、日本の近くには核を持つ北朝鮮という非常に危険な国がある。だから、日本も交戦権を認め軍隊を持つ普通の国になるべきだ」という意見があります。この様に言われると、思わずこの意見に賛同してしまう人、あるいは反論に窮してしまう人は多いのではないのでしょうか。
では事実はどうでしょうか。筆者は答えます。「20世紀はこの推測、この仮説が正しいかどうかを判断するために、世界規模で大きな実験をやった100年だった、といえます。・・・この100年の間、国家によって殺されたおよそ2億人。圧倒意的過半数は兵隊ではなく、(女性、子供、老人を含む)普通の人。そして、その殺された人々の圧倒的過半数は、国の外にいる外国人ではなく、それぞれの自国民」です。つまり、軍隊に守ってもらえるどころか、自国の軍隊に多くの国民が殺されたのです。この事実は、最近あった自衛隊による監視調査から考えても強い説得力を持っています。また、国民の安全が問題になると軍事のことばかりに話題が特化しますが、食料自給率や牛肉などの食の輸入管理体制などを見てみると、国が国民の安全を本気で考えているのか大きな疑問が残ります。
私たちに必要なことは何でしょうか。
筆者は主張します。「現実主義者になりましょう!」と、そして、そのためには「まず現実を見なければなりません。戦争と平和に関して最も重要な現実は歴史の記録です。・・・それぞれの国が、人類史上最大の軍事力を備えた20世紀は、人類史上最大の戦死者を出してきました。そして、軍事力の大きな国だからといって、戦争被害が少なかったわけではありません」。実際、アメリカは、殺人犯罪率が先進国の中でも非常に高く、戦争に従軍した兵士の多くは、心的外傷後ストレス障害(PTSD)や劣化ウラン弾など戦争の後遺症で苦しみ、社会そのものを不安定にさせています。しかも、本来戦争をしなければ必要でない大きな経済的負担も重くのしかかっているのです。
これから憲法改正が私たちに問われるとき、過去はそうでも今の政府はそんなことをするはずはないと甘く考えて国家を盲信したり、多くの生命と環境を破壊し人類を絶滅できる核兵器を作ることを非常識と感じられない鈍い感覚が「普通」であったりしていては問題です。筆者が言うように、私たち一人ひとりが、いいかげんに「現実主義者」に目覚めなければなりません。
この本は、小学校高学年くらいからでもわかるようにやさしく書かれていますが、内容は濃く、「普通」とは何かを根本から考えさせてくれます。憲法改正の発議までに是非多くの人に熟読してもらいたい本の1冊です。
なお、「現実主義」をより深めたい人には、同じ著者の以下の2冊と他の本1冊をお勧めします。
経済成長がなければ私たちは豊かになれないのだろうか(平凡社)
なぜアメリカはこんなに戦争をするのか(晶文社)
増補国の理想と憲法−国際環境平和国家への道―(7ツ森書館)