本作は第1話の初出が徳間書店『問題小説』の2002年4月号であるから、作者が直木賞を受賞した直後に発表された作品ということになろうが、いわば時の人であったにもかかわらず隔月で計4回掲載された状態で長らく放置されていた。その後08年12月号から09年3月号にかけて1話分の追加エピソードが掲載され、ようやく単行本化されたという経緯からして、率直に言って「駄作におまけをつけて無理やり単行本化した」という印象が拭えない。
タイトルは『晋平の矢立』となっているが、この矢立は主人公の晋平が道具好きということを描写するほんの一つの小道具にすぎず、ストーリー上特に重要なアイテムというわけではない。
話自体の組み立ても実に雑。主題がはっきりせず、未消化のまま書き散らされた感がある。話の展開も、第1話「船箪笥」における蔵の壁に開いた穴の謎解きを始めとして、説明不足かつ御都合主義に過ぎる。もともとディテールに拘る作風ではないにせよ、これでは受賞直後の大事な時期には出版できなかっただろう。
私は山本一力のファンであり、氏の時代小説には大体目を通しているが、本作のがっかり感は『いすゞ鳴る』以来のものだ。山本一力作品を未読の方には、別の作品から入ることをお奨めする。