地球を包み込んだ大きな界面の外側では1億倍の速度で時間が流れ、やがて太陽が巨星化して地球を飲み込んでしまう危機が迫ってくる…。
実にSF的で奇抜な設定の妙もさることながら、3人の幼なじみタイラー、ダイアン、そしてジェイスンの30年にわたる人間関係が丹念に織り込まれていく様子に魅かれます。それぞれが地球滅亡にひた走る世界の中で、後悔と慚愧(ざんき)の念に苦悶する。それぞれが目指すところを心に強く抱きながらも、ままならぬ人生を惑いながら生きる。そんな3人の姿が確かな現実感を伴って読む者の前に立ち現れるのです。
「しっかりしなさい。世界は驚きで溢れているのよ。生まれたときから、人間は自分のなかに他人を抱えているものだし、その他人をちゃんと紹介してくれる人なんか、どこにもいないの」(323頁)
この言葉が心に添うほど、登場人物たちが多面的な自己を時にもてあましぎみである局面を見せます。こうした、生きることに迷う人間が描きこまれた物語を読み進めるにつけ、SFを読んでいることをときに忘れてしまうほどです。
一方で、この書を読了しても、SF的ストーリー展開は中途で終わった印象を残します。
「訳者あとがき」によれば、それはこれが作者ロバート・チャールズ・ウィルスンの中では「Axis」「Vortex」へと引き継がれる3部作の第1編に相当する物語だからです。
界面の持つ本来の目的とは。そして界面を創った仮定体の正体とは。
謎はまだ提示されたばかり。幸い「Axis」は「
無限記憶 (創元SF文庫)」として同じ翻訳家によって訳出されたところです。
まずは第2編へと読書のコマを進めたいと思います。