表題では、時の不可逆性が主題に思えますが、実際には生命の主体的意志と、それが創る時間が主に説かれています。生命は、外界を感じ、それに反応する主観。即ち無意識に感覚器官を経ずに自ら生きようと、自分の行動を決める主体的意志を持っている。しかし生命の中には物理的な原子や分子しかない。が単なる原子の乱雑な大集団ではなく、構成する分子が決められた役割を担う秩序体である。同時にその秩序は固くはなく、主観を生み出せる脆さを持っている。秩序と脆さを兼ね備える相は、気体や固体ではなく液体。生命は液相の水分子の中から生れたと考えうる。
生命は、システムとして働く分子機械であるが脆い。乱雑な熱運動から救うには、強い主体的意志が必要。その主体的意志成立の条件は、外界と峻別された内部時空をもつこと。第2に連続的にフィードバックを繰り返すシステムであり、しかも各々のシステムの働きを一つの目的に向かって共鳴できること。第3に、生命の主体的意志は、生命にのみある内観であり、それは時間と共にあること。宇宙自体には時間はなく、生命の主体的意志が、時間の流れを創っている。以上の様に、生命誕生には、脆い秩序と流れる時間と主体的な意志が必要だが、更に3者には、一方向の因果関係がある。時間の流れが、エントロピーを増大させ、そのエントロピーの増大から、主体的な意志が生じ、主体的な意志が、時間の流れを生む。生じた生命は、常にエントロピーが増大する世界にいて、自分自身が存在し続けるために、それが増大する方向へと時間を創らねばならないことが、この連関の環から言える。もしエントロピーが減少する逆の世界があっても、生命からは見えず、生命は自分の存続を賭けて選ぶエントロピー増大の世界しか見ることはない。物理を超えた内省的な概念を使いながら、物理的世界内に留まった省察で、刺激されます。