宇宙物理学者にして今や第一級の科学解説者であるデイヴィスの書いた本には大抵時間の話題が登場するが、本書は時間のみにテーマを絞り、集中的に解説したものである。専門家向けの著作としては既に『時間の物理学』が存在するのだが、ここでは一般向けにもう少し間口を広げ、物理学的素養の余りない読者でも読める様になっている。
基本的にはアインシュタインの業績に沿って、一般的な思い込みに反する相対論に於ける時間の概念を説明してゆくと云うスタイルを採っていて、著者自身の体験や学会を巡る様々なエピソードも適宜に織り込まれていて読み易い。自然科学者がその著書の中で哲学や文学と云った「思想」的側面について言及する場合、苦笑させられる様なミスリーディングが間々あるのだが、今回は余りその様なこともなく、始めの一章で古今の時間概念についてごった煮的に概観した後は、物理学の話題のみに集中出来る。
個人的にはもう少し突っ込んで説明して欲しい点も幾つかあったのだが、とにかくテーマが「時間」と云う一本に絞られているので、400頁そこそこと云うボリュームにしては割と網羅的である。ややマイナーな見解も混じってはいるが、論調は著者による独自の解釈を押し付けるタイプのものではなく、謎は謎として残しているので、大体安心して読み進めることが出来る。原書の書かれたのが1995年なので、専門家が見れば多分もう時代遅れになっている分野もあるのだろうなぁと思いつつも、取り敢えず時間についての物理学的知見をざっと知ってみたいと云う方にはこの本を一番にお薦めしておく。