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時代閉塞の現状 食うべき詩 他十篇 (岩波文庫)
 
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時代閉塞の現状 食うべき詩 他十篇 (岩波文庫) [文庫]

石川 啄木
5つ星のうち 4.5  レビューをすべて見る (2件のカスタマーレビュー)
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商品の説明

内容(「BOOK」データベースより)

自己の詩作を語りながら日本の現実を深く見つめた「食うべき詩」、その現実に立脚しつつ強大な「敵」に対して身構えた「時代閉塞の現状」。さらには幸徳秋水が獄中で書いた「陳弁書」とクロポトキンの『一革命家の想い出』の読解から生れた“A letter from prison”。啄木(1886‐1912)の先駆的な思想の歩みを明らかにする論集。

登録情報

  • 文庫: 206ページ
  • 出版社: 岩波書店 (1978/9/18)
  • ISBN-10: 4003105451
  • ISBN-13: 978-4003105450
  • 発売日: 1978/9/18
  • 商品の寸法: 18.8 x 13 x 3 cm
  • おすすめ度: 5つ星のうち 4.5  レビューをすべて見る (2件のカスタマーレビュー)
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By 麒麟児 トップ500レビュアー VINE™ メンバー
松田道雄氏の編になる啄木の各種論集。順に読むと、彼の思想遍歴を追うことができる。(正直、彼の生き生きとした思索の展開は、彼の詩歌よりも興味深い。)

大きな流れで云えばそれは、(1)天才主義の信奉「教育の最高目的は、天才を養成する事である」(25頁)、(2)「自己発展の意思と自他融合の意志」の弁証法への目覚め(41頁)、(3)無政府主義への傾斜(尤もその熱烈な信奉者となる前に彼の生は終わったように思われるが)の順になろうか。そして、その通奏低音が有名な「噫、哀れなる驕慢児!」(16頁)の一句が剔抉したわが国文明の未成熟さであったように思われる。

また、(その後攻撃することにはなるものの)彼の自然主義に対する一定の評価「私は最近数年間の自然主義の運動を、明治の日本人が四十年間の生活から編み出した最初の哲学の萌芽であると思う」(63頁)や道徳の捉え方「道徳そのものを、無理に推込められた牢獄と思ったのは、間違いであった。お互いが、雨を防ぎ、寒い冬を防ぎ、安らかに眠るべき「家」であった」(75頁)も云い得て妙である。

なお、「所謂今度の事」の脱稿は「明治四十三年秋」と記されているが、朝日文庫版の『一握の砂』に付された近藤典彦氏解説では「七月中旬」とある。後者が正しければ、「時代閉塞の現状」とは順序が入れ替わることになろう。
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1 人中、1人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
By ふんふん トップ100レビュアー
 啄木の詩が素晴らしいのはもちろんだが、彼の評論も本当に素晴らしい。彼は本当に文章に命をかけている。

 『時代閉塞の現状』は当時の思潮に対する総括的な批判だ。当時文芸・思想上のムーブメントとして目立っていた「自己主張の思想」からも、その反対の「自己否定の自然主義」からも、そもそも「理想」などは出て来ようがないから、「この時代閉塞の現状に宣戦」して真の理想を取り戻さねばならないという。
 「明日の考察! これ実に我々が今日において為すべき唯一である。そうして総てである」と啄木は言う。そして、我々の目指すべき明日の理想とは、とにかく「一切の空想を峻拒して、そこに残る唯一つの真実──『必要』! これ実に我々が未来に向って求むべき一切である」。
 ここで「必要」と言っているのは、単なる物質的な意味での「必要」(カネやメシ)のことではないだろう。これはおそらく「空想」や「空論」の非現実性に対する対義語だ。「我々の“現実”の生活を少しでも立派で美しいものにするために、是が非でも“必要”なものは何か」というふうに考えてみろ、というメッセージである(と私は思う)。

 表題作品の二つ目、『食(くら)うべき詩』というエッセイでは、「詩」というものについて啄木自身がこれまでいかなる思いを抱いてきたかを振り返っている。
 啄木は、虚飾・虚栄の気味のある詩人、「我は詩人なり」と自惚れる詩人、文学を何か高尚なものと勘違いしている詩人は、「極力排すべきである」という。それどころか、「最も手取早く言えば私は詩人という特殊なる人間の存在を否定する」のだという。
 『ガラス窓』というエッセイのなかでは、「地方にいて何の為事も無くぶらぶらしていながら詩を作ったり歌を作ったりして、各自他人からはとても想像もつかぬような自矜を持っている、そして煮え切らぬ謎のような手紙を書く人達の事を考えると、大きな穴を掘って、一緒に埋めて了ったら、どんなにこの世の中が薩張(さっぱ)りするだろうとまで思う事があるようになった」とまで言っている(笑)。

 啄木の詩はどれも人間の生活に密着したものだ。啄木にとって「詩」や「歌」というのは、教養を気取って格好をつけるためのものではなく、いわば地べたに生きる人々の生活必需品のようなものでなければならなかったのである。
 だから、「詩人たる資格は三つある。詩人はまず第一に『人』でなければならぬ。第二に『人』でなければならぬ。第三に『人』でなければならぬ。そうして実に普通人の有(も)っている凡(すべ)ての物を有っているところの人でなければならぬ」というわけである。
 文学世界の高尚な言葉を俗世間の低みにまで引きずり下ろすけしからん奴だ、と啄木をなじる文学者もいた。しかし啄木に言わせれば話は逆であって、文学を、詩を、生きる上であっても無くても困らない「高尚な」ものから、人間の生にとって是が非でも「必要」なものへと引き上げてやったのである。

 ――評論を読んでいると啄木はなかなか過激な人で、この文庫本に所収されている他の文章でも、田山花袋には「人としての卑怯があると思う」とか、「田山氏の人生観にはまだまだ幼稚と不聡明と不統一とがおびただしく含まれている」と言ってみたり、永井荷風に対しても「巴里に去るべきである」と言ってのける。同時代を代表する大作家たちにこれだけ遠慮なく噛み付くのだから、

 はたらけどはたらけど猶(なお)わが生活(くらし)楽にならざりぢつと手を見る

 といった歌を詠みつつ死んでいかざるを得なかったのもわかる気がする(笑)
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