リサ・バティアシヴィリ(Lisa Batiashvili)は1979年グルジア出身のヴァイオリニスト。1995年ジャン・シベリウス国際ヴァイオリンコンクールで優勝。BBCが1999年から2001年にかけて選出した「次世代芸術家」の1人。2006年にはマグヌス・リンドベルイ(Magnus Lindberg 1958- )のヴァイオリン協奏曲の世界初演を担うなど、現代のヴァイオリニストとして注目すべき活動を行っている。当盤は、「時の谺」というタイトルで20世紀の作品を集めたバティアシヴィリらしいアルバムと言える。
収録曲は
(1) ショスタコーヴィチ ヴァイオリン協奏曲第1番
(2) カンチェリ(Giya Kancheli 1935-) ヴァイオリン、弦楽合奏とテープのための「V&V」
(3) ショスタコーヴィチ 組曲「人形の踊り」から から「抒情的なワルツ」(編:タマーシュ・バティアシヴィリ)
(4) ペルト(Arvo Part 1935-) 鏡の中の鏡
(5) ラフマニノフ ヴォカリーズ
(1)〜(3)はエサ=ペッカ・サロネン指揮、バイエルン放送交響楽団がバックを務め、(4)と(5)はエレーヌ・グリモーのピアノ。録音は2010年。
ヴァイオリンの密やかな耽美性を満喫できる優れたアルバムだ。わざわざ「密やかな」と書いたのは、ここで表出される耽美性が、このヴァイオリニストの本来的な狙いとはちょっと異なった感想かもしれないと思ったら。つまり、バティアシヴィリは低音の音量が豊かで、コントロールに幅があるため、この領域から情感をあぶり出し、ほの暗くも暖かな雰囲気を表出していて、その基盤の上に音楽を築き上げているように思うからだ。そのようなスタイルで導かれる印象が、私にはたまたま耽美的に思えた、ということ。
メインのショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲で感心したのは、抜群に第1楽章である。このヴァイオリニストのやりたい世界というのがとてもよく判る。悲しくも重い楽想でありながら、暖かい脈打つような音楽の情感に満ちていて、刻々と迫るように満ちるように情感を湛えていく。そうしたエネルギーの蓄積と放散の過程が見事で、音楽全体が力に満ちている。この楽曲ではサロネンの好サポートも言及すべきだろう。メタリックでありながら、無機的ではない知的なドライヴだ。
その他、やはりグルジアの作曲家であるカンチェリ作品への共感溢れるロマンティシズムも見事。またペルトの「鏡の中の鏡」はボーダレス音楽風で、ピアノの高音のゆったりとした3連音のモノローグをバックに、ヴァイオリンが歌うのが印象的。いかにも夜の音楽といった雰囲気に満ちている。いずれも調性的で馴染み易い楽曲とも言えるだろう。