流行った頃は皆知っていても数年経つと忘れられる歌がある一方、この『時のないホテル』のように、発売されて28年経ってもまだしっかりと売れているアルバムを見るにつけ、音楽の値打ちや価値とは、時代を越える個性の輝きを基準にして計られるべきだと思います。
「セシルの週末」での昔の不良少女のコメント♪そうよ下着は黒で 煙草は14から♪、「時のないホテル」の♪電話のわきのメモはイスラエルの文字♪♪蜂の巣になり広場に死す♪という冷戦時代を彷彿とするような歌詞、「雨に消えたジョガー」の♪Myelogenous Leukemia(ミエロジエーナス・ロイケミア)♪のように他のアーティストでは処理できないような難しくもあり象徴的な言葉が散りばめられています。
その言葉の放つ強烈な印象とモティーフに強くひかれていますが、音楽は実にポップな香りのする上質な物ばかりですので、聞き飽きることがないのです。どのようなテーマでも作曲できるという才能の煌きを感じますし、1曲1曲、実によく練られた作曲技法です。
典型的なユーミン・ワールドともいうべき音楽に彩られた「水の影」の完成度は素晴らしいですね。ノスタルジックな「雨に消えたジョガー」、オールディーズな香りがステキな「ためらい」等、どの曲を取り上げても名曲です。
発売時、ユーミンは26歳、他のミュージャンが逆立ちしても到達しえないような境地にたどりついているのが分かるだけに、天賦の才という言葉通りの凄みすら感じました。J-POPの女王としてその後もずっと君臨し続けるのは、これだけ豊かな才能の煌きを見せられれば当然という気がします。松任谷由実という稀代のアーティストの足跡を同時代的にたどれた幸せを感じています。