原文が読めればよいのだが、と思った。一見静謐な田舎ののどかな日常が
淡々と描かれ、夥しい挿話が断片的にはめこまれ、パウル・クレーの絵の
ように、また、童話の挿絵のように物語りは展開してゆく。ところどころ
に突然現れる毒キノコの料理のレシピ。作者は子供のころから平気で食べ
ていたと語る(騙る)のだが。ポーランドは歴史的に絶え間なく侵略され
てきた。迫害の歴史をもつ国である。国境のある町の物語りは死骸累々で
ある。キノコのモチーフはヒロシマ・ナガサキの原爆雲に連なってゆく。
人類。戦争。名もないひとびとの名もない死。野の草花を吹き抜ける風の
ようにこの小説はそうした死の数々を悼むでもなく淡々とつづっている。
作者とともに過ごすマルタという名の老婆は作者の分身であると思える。
不気味な存在感をもつマルタは大地母神のようだ。何度でも読み返したい
極上の語りだ。レシピは実行しないほうが…。