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昭和陸軍の軌跡 - 永田鉄山の構想とその分岐 (中公新書)
 
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昭和陸軍の軌跡 - 永田鉄山の構想とその分岐 (中公新書) [新書]

川田 稔
5つ星のうち 4.5  レビューをすべて見る (13件のカスタマーレビュー)
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商品の説明

内容紹介

交渉継続か断固開戦か。国運をかけた議論のなか、なぜ陸軍は対米開戦を決意したのか。永田鉄山の構想を分析し、新視点で迫る。

内容(「BOOK」データベースより)

昭和十年八月十二日、一人の軍人が執務室で斬殺された。陸軍軍務局長永田鉄山。中堅幕僚時代、陸軍は組織として政治を動かすべきだとして「一夕会」を結成した人物である。彼の抱いた政策構想は、同志であった石原莞爾、武藤章、田中新一らにどう受け継がれ、分岐していったのか。満蒙の領有をめぐる中ソとの軋轢、南洋の資源をめぐる英米との対立、また緊張する欧州情勢を背景に、満州事変から敗戦まで昭和陸軍の興亡を描く。

登録情報

  • 新書: 343ページ
  • 出版社: 中央公論新社 (2011/12/17)
  • ISBN-10: 4121021444
  • ISBN-13: 978-4121021441
  • 発売日: 2011/12/17
  • 商品の寸法: 17.2 x 11 x 2 cm
  • おすすめ度: 5つ星のうち 4.5  レビューをすべて見る (13件のカスタマーレビュー)
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By mojo
『失敗の本質』などこの時代の陸軍に関する本には戦略の失敗を指摘するものが多いが、本書は戦略より更に上の概念である「構想」にスポットをあて、永田鉄山の構想がどのように成立し、石原莞爾の構想とぶつかりながらも武藤章らに受け継がれ、失敗していったかを描いている。あとがきにもあるように、この点に本書の新しさがあり、すでに何冊か関連書籍を読んで知識のある読者にとっても歴史の流れを整理するのに有用である。

第一次大戦をドイツで味わった永田は、必ず世界大戦が再来し、その時は資源と工業がカギとなることを見抜き、「次の大戦で日本がフリーハンドを持つために、満蒙・華北中を経済圏に置いて資源を確保し、工業の発展を促す。中国は統一した戦力がないため簡単に支配できる。この過程では米英とも対立は外交で解決できる」という構想を描く。
永田構想は永田の出世とともに支持者を増やし華北分離工作が開始されるが、彼の急死の後、石原の台頭により足踏みする。
しかし日中戦争の広がりを石原は止められず、武藤ら統制派が陸軍を掌握する。武藤らは永田構想に基づき、蒋介石は「一撃を与え」ればすぐに屈服し、華北を奪うことが出来ると考えていた。だが中国は退却しながらも抵抗を続け、日本にとっては前線がひたすら伸び続ける事態となる。

本来ならこの時点で武藤らは破綻した永田構想を捨てて、新しい構想を立ち上げるべきであったが、「新東亜秩序」「大東亜共栄圏」などの言葉を作りだしてインドシナや蘭印にまで戦線を広げてしまう。状況は破綻しているのに、経済圏確保という永田構想の目標の規模を拡大させた構想だった。更にはインドシナ進出以後に対英関係が悪化したことを受け、ヨーロッパで連戦連勝していたドイツとの同盟を求め「世界大戦でのフリーハンド」という目標も捨ててしまう。
もはやこの時点で武藤らには明確な構想が無かったのだろう。この後はよく知られているように、なし崩し的に対米開戦へと進んでいく。

「永田が生きていれば」というifで語られることが多い永田鉄山であるが、それは彼を否定できなかった後継者たちへの幻滅を元にしているのかな、と読みおえて考えた。
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5 人中、5人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
1921年(大正10年,有名なバーデン・バーデンにおける永田鉄山以下3名の会合)以降1941年(昭和16年,太平洋戦争開戦)までの約20年間に関し、紆余曲折はあるものの戦争に突き進む日本陸軍の姿を、中枢にいた“統制派”の4名(永田鉄山、石原莞爾、武藤章、田中新一)を軸に克明に追うもの。

従来このあたりの歴史叙述はともすれば大臣クラスに焦点を当てたものも多かったが、本書は実際に陸軍省、参謀本部を動かしていた実務部隊の局長、部長、課長レベルの目線で描いているところが目新しい。

上記4名は陸軍軍人のなかで(程度の差はあるが)単なる戦争屋にとどまらず、独自の世界情勢への認識、国家観、戦略観を持ち、政治への関与を押しすすめ、軍事行動を進めた点が際立っており、この意味で陸軍を動かす中心になっていたことが良く分かる。

いずれも統制派のくくりのなかではあるが、各々の認識・判断には微妙というレベルを超える違いがあることが本書では極めて明確に分析してある。特に開戦直前の、武藤・田中の考え方のギャップには改めて認識を新たにした。

一方戦前の軍事関係を読むときいつも考えさせられる点、1。本当に“勝てる戦争”と思って開戦したのか?2。戦争を終結させる目途はあると考えていたのか?(著者は一応“考えていた”とするが)に関しては判然としなかった。

また、
1.やや著者の叙述部分、説明が多く、もう少し(第一次)史料に語らせたほうが良い、と思われたこと、
2.本書を通し、叙述の繰り返しがいくつか見られたこと(もちろん重要な点だからであろうが)
こともあり、星を4にとどめる。
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14 人中、12人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
By 空満
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 日本陸軍の派閥である皇道派と統制派という名称は昭和史の書物には頻出するが、その実態については昭和の陸軍史をこれまでひも解いたことのない私には知る機会はなかった。両者の確執も組織につきものの派閥争いのひとつと何となく思っていた。だが、本書を読んで、単に派閥の名称と思えた呼び名が、日本の進路を左右した重要な意味を孕むキーワードとなることを知った。
 と言っても本書は陸軍の派閥抗争史を主題にしたものではない。満州事変から敗戦へ至るまでの日本の進路を主導した陸軍の軍事的かつ政治的な戦略を明らかにすることにある。
 第一次大戦を現地で体験した陸軍の中堅将校は、今後の戦争が国家の人的物的資源を総動員する「総力戦」になることを認識する。日本を総力戦に対応できる体制へ変えていくために、彼らはまず長州閥に支配されていた陸軍を改造することをめざす。それが永田鉄山を中心とするグループ「一夕会」であり、後の皇道派と統制派の母体となる。一夕会メンバーは陸軍中央の重要ポストを手中にして組織を動かし、また軍を通して政治への影響を強めていく。
 彼らの戦略が現実となったのが満州事変と満州建国である。永田は、総力戦が可能となるには日本が自給自足体制を確立していなければならないと考えた。その第一歩として中国大陸の軍事資源を支配下に置くことを企てたのである。通説では満州事変は関東軍の石原莞爾等の独断専行のように思われているが、満州への武力行使・領有は一夕会が作成した案に沿って関東軍と陸軍中央の一夕会系幕僚が策動したものであった。
 永田は満州のみならず華北の軍事資源も視野に入れた工作を進める一方、一夕会にあった早期の対ソ開戦論には反対する。この意見の対立が統制派と皇道派の分裂となり、永田は統制派のリーダーとなるが、皇道派の将校に惨殺される。しかし、2.26事件の後に統制派は陸軍の主導権を握り、永田の影響下にあった者達が陸軍をリードしていくことになる。
 日中戦争の不拡大と拡大をめぐって参謀本部作戦部長の石原莞爾と作戦課長の武藤章は対立するが、その背景には華北の軍事資源の獲得をめざした永田路線の修正と継承の対立があったとする。
 石原が失脚した後の陸軍の戦略をリードしたのは、軍務局長となった武藤と参謀本部作戦部長の田中新一である。彼らもまた総力戦体制を可能にする自給自足経済圏の確立という戦略を引き継いで、大東亜共栄圏の構想にたどりつく。それは、欧米に代わって日本がアジアの利権を独占することを意味したから、欧米列強との武力衝突を不可避とした。
 満州事変以後の日本が結果として無謀としか言いようのない戦争を重ねて自滅したという印象があるが、それには「総力戦を可能にする自給自足経済の確立」という永田鉄山以来の構想の呪縛があったのだ。
 だが、この構想を具体化していくにあたって陸軍は一枚岩ではなく、要所要所で激しい内部対立・葛藤があり、これがまた戦略と政略に影響をおよぼす。日中戦争をめぐる石原と武藤の対立がその好例であるが、対米開戦に際しても武力行使に積極的な田中を抑えて、武藤が対ソ対米開戦を回避するため手練手管を尽くすなど意外な事実も詳細に明らかにされる。
 昭和の戦争を知る上で、直接の当事者である陸軍首脳部が何を考えどのように行動したかの知識は欠かせない。本書は当事者の著作、日記、回想、証言など膨大な関連文書を博捜して昭和の戦争の核心に鋭く切り込む好著である。
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