雪が降りしきる昭和11年2月26日、憂国の青年将校たちが蹶起した「2・26事件」。本書は、その青年将校たちの「軍師」となった予備陸軍少将斎藤瀏とその娘である歌人・史を通し、青年将校たちと天皇の「昭和」を描いたものである。
斎藤瀏の生涯を描きつつ、青年将校の首魁のひとりと交友があった斎藤史の歌が効果的に引用される。
「暴力のかくうつくしき世に住みてひねもすうたふわが子守うた」
「白うさぎ雪の山より出でて来て殺されたれば眼を開き居り」
斎藤史の歌のグロテスクなまでの美しさが露わになる。
「ある日より現神は人間となりたまひ年号長く長く続ける昭和」
敗戦後、昭和天皇の人間宣言を知った斎藤瀏は、「陛下の人間宣言を栗原たちが聞かないでよかったなあ」と口癖のように言ったという。
それから半世紀が経ち、時代は平成へと変わった。歌会始の召人となった斎藤史に、今上天皇は「お父上は瀏さん、でしたね…」と声をかけられ、長く長く続いた斎藤史たちの昭和は終わったのだった。
工藤は「斎藤瀏の存在こそが、実は事件の真の主役ではなかったかという事実が多くの史料から明らかになってくる」(p16)というが、本書においてその論証は充分為されているとは言えない。しかし、「昭和」という時代の象徴として「2・26事件」を取り上げており、単なる紀伝や美談で終わらせていない。
「昭和」という稀有な時代の側面を知る読み物として興味深い。
五社英雄「2/26」を併せて鑑賞したい。