いろんなところに書き散らかしたエッセイの寄せ集めだが、有能な編集者の仕事らしく、1冊の本としてじつによくまとまっている。戦後という時代を個人史にからめて書き綴ったエッセイ集。関川氏の本はこれまでも何冊か読んでいるが、こんなに達意の文章を書く人という認識はなかった。うまくてかっこいい文章は、読んでいて気持ちがいい。そして、ときどきぐっとくる。
たとえば、こんなユーモラスな文章。「しかし、現実にはすでにこの時期、父の脆弱な理想主義は、母のたくましい現実主義に日々敗北しつづけていたのである。」
あるいはこんな文章。「私は、自分が夏の真ん中まで漕ぎ出したボートに似ていると思った。もうこれ以上沖へも行けず、かといって海岸に戻る力も残っていない。」
荒木経惟についてはこう書く。「希望に満ちたニヒリストは、いわば清浄な下品さの持主である。また誠実な無頼であり、実質ある空虚でもある。」
こんな時代のなかで言葉は力を失ったのかと思っていた。ただ自分が言葉を見失っていただけだった。本書でたしかに感じた。言葉には力がある。その力を信じたい。こんな時代のなかで。