エピソードを通じて、昭和天皇のお人柄にふれられる佳作。
その立場上、自由勝手な発言は許されない。
だからこそ、ふとしたエピソードの中にそのお人柄が偲ばれる。
とりわけ心に残ったのは、
熊本での陸軍演習を観覧された後の帰りのエピソードだ。
戦艦榛名に御乗艦のおり、夜、暗い甲板に立ち、
一人、挙手の礼を行っていたところを侍従は見つける。
侍従がそばの望遠鏡を覗くと、遠く陸地でお召し艦を見送る提灯が見えたとか。
奉送する国民には、それに応える陛下のお姿は見えなかったろう。
それでも、国民の思いに応えたいと努めるお姿、なんという至情の方であろうか。
わたしは昭和天皇のお人柄に、日本人の最良の美徳を見た。
それとともに、その価値観が急速に失われてしまったことにも気づかざるをえない。
「明治は遠くなりにけり」との言葉はいつの頃だったか。
いまや、その感慨は「昭和」への追憶に重なっている。