本書の著者は26年間宮中に仕えた料理人であり、また、その実、紙面のほとんどが昭和天皇にまつわる話なので、ついつい昭和天皇が主人公のようにに思えるのかもしれない。
昭和天皇がお好きなものは、皮付きのふかし芋、ジャムのサンドイッチ、鰻などなど。
お嫌いであったであろうものは、フォアグラ。
そして、辛いもの、酸っぱいものもご遠慮なさったご様子。お酒も召し上がりませんでした。
天皇陛下はお箸を付けられたが最後、必ず食べつくしてしまわれる、らしい。
だから、箸で触って怪しいもの、は初めから口に運ばれないのだそうだ。ただ、召し上がる量を調整されるために残されることはある。そこのところは、宮内庁の料理人であれば、理由がすぐさま分かるのだそうだ。至って少食であられたそうだから。
昭和天皇は、麦入りご飯を召し上がっておられたそうだ。
第二次世界大戦後の日本国民の食糧難を心に痛め、昭和天皇からじきじきに麦を入れるように申し出があったそうだ。昭和天皇は、食事に対する希望というものを一切言われるような方ではなかったので、それはとても稀なことだそうだが、今でも天皇家は、その歴史を受け継いで麦入ご飯を召し上がっておられるそうだ。
朝食はかならず、手をかけたオートミールか市販のコーンフレーク、どちらか。
「お皿に盛り付けられるものは、すべて食べられるもの。」が天皇家の鉄則。
ある時、若い著者は、柏餅の葉を広げてお出ししなかったために、昭和天皇は真ん中の芯を残して、すべての葉っぱと一緒に柏餅を召し上がってしまわれたらしい。
その時は、お食事の部屋から「美味しくない」と声が聞こえたそうだ。
お食べになられることについて、側についている女官から直答(じきとう)するのはご法度である。天皇からお尋ねがあればお答えも出来ようものだが、お側からは言えない。だから葉っぱごと召し上がられる天皇を見ながら「あれあれあれ」と青くなったに違いない。かくして若き日の著者は始末書!とあいなる。
天皇家の宮中での食事にまつわるエピソードが、微笑ましくも満載なのだ。と、同時に彼ら料理人のレベルの極めて高い技術に驚きも禁じえない。その包丁捌きとミリ単位に、かつ、均一に求められる精度はすごい。
均一に切りそろえられない食材は、先輩のチェックによってすべて破棄される。
いやぁ、日頃の献立からエピソードまで、実にチャーミングな本だ。
これは、興味ある人にはおすすめの一冊である。