この一冊には二・二六事件の裁判の過程と判決を下記の三章に分け、松本清張の視点で解説が加えられている。
・秘密審理
・判決
・終章
清張としては最終的に二・二六事件を述べるために昭和史に手をつけたのではと思えてならない。天皇制の利点、弱点を表現し、現在の陸・海・空という自衛隊の三軍を防衛大臣がトップというのも、安全弁として有効であることを証明しているのでは。
本書を読みながら、北一輝、西田税が死刑という判決に至ったことに驚きをかくせない。確たる証拠もないまま、陸軍大臣、陸軍統制派の意向を受けての裁判の結果に、冤罪ともいえるが、この対応は明治陸軍の山縣有朋から続いていたのではと思える。
そして、真崎甚三郎に対する無罪判決に、天皇制の矛盾と限界が露呈されている。
余裕があったならば、清張には秩父宮の政権(天皇位)奪取の軍事クーデターとして二・二六事件を描いて欲しかった。昭和の壬申の乱として清張はどのようにストーリーを進めるのか、読んでみたかった。
このシリーズを読みながら、清張最後の作品である『神々の乱心』は「昭和史発掘」の集大成ともいうべき小説である。二・二六事件の青年将校が大本教による国政の政権操作を危惧する一文を読んだとき、清張の核心は初期の短編集にあった「粗い網版」からの連続であったのだと思えてならない。