この一冊には下記の3つの事件について、松本清張の視点で解説が加えられている。
・「桜会の野望」
・五・一五事件
・スパイ“M”の謀略
これらの3つの作品には驚くべき人物が次々と登場してくる。
まず、東京谷中の「朝倉文夫彫塑館」の主、朝倉文夫だが、早稲田大学の大隈重信像を制作した彫刻家である。その朝倉が軍部のクーデター事件の祖ともなる橋本欣五郎をアトリエ併設の自宅に招いて政局を語っている。
続いて、大本教の出口王仁三郎と合気道の創始者である植芝盛平である。大本教の信者には陸軍、海軍の軍人たちが多かったが、このクーデターにおいて信者の動員をかけるという計画があったという。
また、暗殺された首相の犬養毅だが、その盟友が玄洋社の頭山満である。その頭山の三男である頭山秀三が血盟団事件に関わり、その流れから犬養毅殺害に至り、思想と人間関係のズレに不思議を感じる。
戦前、特高警察と憲兵は泣く子も黙るといわれ、恐れられたが、その憲兵が日本共産党でスパイを働いていたというのには驚く。吉田茂の自宅には使用人として憲兵がしのびこんでいたが、日本共産党の中枢に入り込んだ“M”と呼ばれる憲兵はソ連にまで行っている。これには、KGBも真っ青である。
日本敗戦にともない、軍部の侵略行為を世界に喧伝したGHQだが、はたして、あの戦争に突入した本当の原因は何だったのだろうかと本書を読みながら考えた。貧しい国民のために軍部は政治改革のクーデターを起こしたが、戦争当事国双方の権力渇望が招いたのではと思えてしかたない。