本書は内田樹のエッセイ集だ。どうせまたブログ本だろ?と思うなかれ。
本書に収められているのは、さまざまな媒体に氏が寄稿した文章をまと
めているものであって、けしてブログから引っ張ってきたものではない(ま、
本人がブログに再録したものもあるのだが…)。
ここの点には二つのメリットがある。一つは、多様な読者に発信している
ため内田氏本人がブログのいつもの文章よりもいくぶん構えて書いてい
ると思われるところだ。最後に収められた鷲田清一に依頼されたカミュ論
にしろ、他者からの依頼をまっとうしようという使命感が感じられる。いや、
べつにいつもいい加減なこと書き連ねているというわけではないんだけれ
ど。いつもならババッと飛ばしぎみに箇所も、懇切丁寧に説明している。そ
のため一段落も長い。文体が「正装」をしてるといえばいいだろうか。
もう一つは、依頼された原稿であるため、書くネタが他者によってすでに決
まっているということ。人間易きに流れるというもんで、ブログだとどうしても
自分の書きたいこと、書きたい形式、書きたい問いに隔たりができてしまう。
その点依頼主が「内田氏本人以外」だと、いつもとはまた別の視点が楽し
める。内田氏の中に実はあったビーチボーイズへの思想的な恋慕や、白川
静の深遠な知性への畏怖など、普段ブログではあまり書かない(書いたこと
はあるかも?)内容の小論も収められているのだ。
本書のテーマは「昭和」である。内田氏が「昭和人」と定義するのは、敗戦を
十代そこらで経験した人たちのこと。人生の真ん中で「断絶」を経験し、内な
る葛藤を抱いたまま、戦後復興を成し遂げていった彼ら「昭和人」たちへの、
内田氏の尊敬の念は計り知れない。彼らの「エートス」は今や戦後民主主義
という蔑称によってカテゴライズされる遺物としてかろうじて残っているのだろ
うけれど、この本の全編を覆うのはそのような遺物、「いたたまれなさ」への
憧憬に他ならない。