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翻訳者の堀茂樹氏がアゴタ・クリストフのことを
あとがきで「オプセッショネルな」
(単一の思念に取り憑かれてひたすらそれを追求しているタイプの)
小説家である、と書いていますが、まさにその通りだと
思いました。舞台も設定も違うのに、この「昨日」という
作品から受ける印象は「悪童日記」に似ています。それゆえに
彼女が抱えているテーマの深さ、大きさ、その悲しみに改めて
震撼とします。
巻末にアゴタ・クリストフの来日記念講演が収録されていて
ち?れが本編と同じく深い内容です。
タイトルは「母語と敵語」。21歳でハンガリーから亡命し
フランス語を話さざるをえない人生を歩みだした彼女が
「敵語」(フランス語)で文章を書き始めるまでの苦労
(なんていう生易しいものではないと推測します)を非常に端的に
語っています。
彼女やナボコフが書き綴る「亡命文学」というジャンルの文学の
奥の深さを考えさせる、すばらしい講演です。
またほかのアゴタ・クリストフ作品でもすでに読者によって
言われていることですが、
堀茂樹氏の訳は素敵です。昔、サリンジャーの
「ライ麦畑」の世界を野崎孝氏の訳が体現し、読者の心を
奪ったことを思い出します。堀茂樹氏の選ぶ言葉は私たちに
アゴタ・クリストフそのものを届け、響かせてく??ます。
この訳でなければ、表現できない世界だと思います。
孤独の理由は主人公のようにドラマティックではないにしろ、現代の日本に暮らす私たちのなかにもこんな虚無感や絶望感を抱え、うんざりするほど長い残りの人生を前に途方に暮れている人は少なくないと思います。
そんな苦しみや現実を徹底した客観的筆致で描き、また一方では彼の精神世界を美しい詩のような散文で表現する。クリストフは誰もが感じる孤独というものを、彼女にしかできない方法で、眼を背けられないひとつの形に作り上げたと思います。
果てしない絶望と孤独が続くにしても、人間はとにかく生きなければならない、自分の人生を生きなければならない...と強く訴えているようでした。
『昨日』のこの1行目に惚れ込んで、最後まで読んでしまいました。... 続きを読む
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