私にとって青春の書といえば、『田園の憂鬱』と『佐藤春夫詩集』の2冊である。
佐藤春夫の文章に出会って、初めて日本語の美しさ、豊かさ、叙情性に触れたようなものだ。
名文家や華麗な文体の使い手はいくらでもいるが、私の琴線に触れる文章といえば、佐藤春夫のそれに他ならない。
今日、佐藤春夫は忘れられつつある作家の一人かもしれないけれど、彼の紡ぎだす文章に文字通りしびれてしまう。
石川啄木とか島崎藤村とか萩原朔太郎とか、依然として愛好される詩人は多いけれど、佐藤春夫がその中の一人に入らないのが悔しくて仕方ない。
しかし、学校で教えるには余りにも色っぽい詩が多いのも確かだ。
代表作の『秋刀魚の歌』を始め、『魔女』『ぱんぱん歌』なんかは教科書には載せづらいかもしれない。
佐藤春夫は日本語の名人だが、漢詩の翻訳も素晴らしく、文語を駆使して漢詩を見事な日本語に移している。
『車塵集』『玉笛譜』なんかは彼でしか成しえない偉業だろう。
日本語の豊かさと可能性に触れたい人にお薦めの1冊である。