向井正雄指揮のVocal Ensemble《EST》の演奏は、豊かな感性を感じさせる伸びやかな表現力と発声を持っていると思います。若々しく透明な声ですので、このような思春期の感受性を大切にするような選曲にとてもあった声質だと思います。全般にしなやかでスピード感もあり、無理をしていませんのでとても聞き易い演奏でした。
『地平線のかなたへ』の「春に」は単独でよく演奏される曲です。親しみやすさと伸びやかさは特筆すべき物を感じました。
また谷川俊太郎の詩からは若い世代への温かい気持ちがストレートに伝わってきます。誰しもが思い描く「青春」という輝きへの憧れと、新しいステージへの旅立ちという惜別の感情とがない交ぜになって押し寄せてくるようです。「青春像」を考えていく「純化」という過程で生まれた結晶の煌きのようなものかもしれません。
『ア・カペラ・コーラス・セレクション』には、「おんがく」「サッカーによせて」「さびしいカシの木」「うたをうたうとき」「ロマンチストの豚」という木下牧子の愛すべき小品が収められています。どの曲もアンコールピースとしても使用できる珠玉の作品です。難しい音楽技法を駆使しなくてもこのように素晴らしい音楽を表現できるのです。
『光と風をつれて』もよく歌われる曲集です。特にラストの「はじまり」は単独で歌われる機会が多いですね。自然を愛し、動植物を愛して多くの作品を残してこられた工藤直子の視点は、日常の人間の悩みとは次元が違う所に存在しています。壮大な詩と重厚な曲が個性であり特徴なのは間違いありません。