蓮實はしばしば、映画に関する自分の書き物をアジテーションと特徴づけますが、この鼎談もそのように考えた方がいいでしょう。ただしアジテーションというより、読者の嫉妬心を煽り立てようとしていると言ったほうが正確かもしれませんが……
ここには映画をネタに語られる人生も社会問題もありません。撮影や俳優の裏話みたいなものも、ゼロとまでは言いませんが、ま、ゼロと言って良い。そもそも、そんなものを期待してこの本を読む人間はいないでしょうけど。
要するにこの本には何が書いてあるのかと聞かれたら、イーストウッドを観ろ、スピルバーグを観ろ、ゴダールは当然観ろ、え? まさかストローブ・ユイレを観てないなんて言わないだろうね、ソクーロフはやっぱり凄いし、ロメールやシャブロルを忘れることは許されない、タランティーノを観ずして今を生きているとは言えまい、何はさておいても候孝賢は観ておけ、オリヴェイラを観るのは大前提、カラックスの途方もなさに触れずして道を説くなよ、スコリモフスキを観たことないのはモグリだし、ウェス・アンダーソンを観ないのは犯罪に等しい、云々。極言すれば、とりあえず本書の270頁、271頁を読んで、あとは直にブツに当たればいいワケです。
ただし誤解のないように言い添えますが(そんな誤解をする人は、たぶん何を言ったってこの本を読まないでしょうが)、著者たちは説教しているのではありませんよ。この著者たちはもっと冷酷というか、ハードボイルドです。「鼎談」という言葉が誤解を招くかもしれませんが、この著者たちはテーブルを囲み、鼻突き合せて話し込んでいるのではないのです。この3人は実はスクリーンに向かって横並びになって、スクリーンを見ている者にだけ理解できる言葉で話しているのです。で、読者の方には時々チラリと、「ねっ?」というように目配せするだけなのです。この「愛の連帯」に嫉妬する者は、飛んで火に入る夏の虫、という次第です。
この本そのものが一つの「活劇」だと私は思うのですが、この言い方、共感していただけるでしょうか?