冒頭にあるが、なぜだか「映画好きの建築関係者は多い」。その逆
もしかりだ。考えてみれば映画であろうとドラマであろうと、建築も美
術セットも、必ず劇中に登場する。建築物も美術セットも、作品 を彩
る重要な「脇役」なのだ。
本書は建築と映像芸術を結ぶ論考集。映画と言ってもそれは、小津
のモダニズム映画があれば、三谷幸喜の一連の作品、さらには「エ
ヴァ」や「クレヨンしんちゃん」の映画版まで射程にあり、バラエティ豊
かだ。
アニメやオタクを建築とお見合いさせた著作には森川嘉一郎『趣都の
誕生―萌える都市アキハバラ』があるが、この本には森川のそれほど
全体的に論としてまとまった主張があるわけ ではなく、一気に読むに
はちとしんどいか。おそらくこれも、初出がすべて雑誌だったものを集
めたからだろう。そういうのはたいていこうなる。
これは著者の性格的気質なのだろうか、なでるように全ての対象を均
質 に「78点」(当社比)くらいの点数で論評してくこの人のスタイルは、
僕は個人的にはあまり好きではない。批判するときは批判すべきで、
例えば、 『さくらん』の時代考証もあったもんじゃないあのめちゃくちゃ
なセットなど、 あれを「作家の強いオリジナリティが全面に出ている」と
評しちゃったりする。 若者の感性ですねわかります。
芸術一般にいえるが、盤石な構築がある上での「破壊」なのがすごい
わけで、何も知らないのがめちゃくちゃやってもそれは単なる「××」のは
ずだ。もっともそれが、現代にて「ポストモダン」という名でまかり通る「何
でもあり」の風潮ならば、それでいいのかもしれないが。
これは終始疑問にあったことだが、この本、いったいだれに向けて書かれ
ているのだろうか。文体は柔らかく、ノリはエッセイ風なので、間違っても
卒論などで使うという人はいないだろう。だがしかし、今時定価2300円の
エッセイなんてのも、なかなか買う人はいないわけである。